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プロローグはこちら https://www.pixiv.net/fanbox/creator/355065/post/418529

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破滅願望   原作:M月  イラスト:朝凪  制作:fatalpulse

4話 上下関係

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 数日が経ったある日。私は父と共に、月に一度開かれる王城魔術師の定例会議へと出席するべく会議室へと向かっていた。

 

 定例会議などと呼ばれてはいるが、その実、内容の大半は各自の研究成果についての進捗報告である。内容が薄いくせに時間ばかりかかる非常に面倒な会議であり、私にとっての益は何一つとしてない。

 

 原則として王城魔術師は出席が義務づけられているので仕方がないのだが、職務などで不在である場合はその限りではなく、今回で言えば母は王都から離れているため欠席である。

 

 実に羨ましいと思うが、会議の代わりに何かしらの面倒な仕事をしているわけなのだから、それを考えればこちらの方が気楽なのかもしれない。

 ふと、私のやや斜め前を歩いていた父がこちらに視線を向けた。

「リア、最近の調子はどうだ?」

 

「はい、とても順調ですお父様。正直な所、会議よりも研究の続きをしたいです」

 

「ははは。同感だよ。私としても、本来魔術師とは魔術の研究だけを突き詰めるのが本来の職務だと思っているからね。周囲と比較して競争心を高めるのも悪くはないが──誰もかれも当たり障りのない研究結果しか報告しないあの場では、それも無理な話かな」

「国に仕えているといっても、やはり魔術師ですから。自身の生涯をかけた研究を公開したいと考える人間は希少でしょう」

「ふむ。もちろん、私にだって秘匿としている魔術の一つや二つはあるが……しかしそういうことではないな。リアもわかっているだろう? 王城魔術院のレベルの低さを」

「……そうですね」

 誰が聞いているとも知れない王城の廊下で、中々過激な事を言う。しかしまあ、誰かに聞かれたとしても父はさほど気にしないだろう。そういう人だ。

 それに実際問題、仮に聞かれたとしても記憶を消してしまえば何も問題はない。というか、私がそれを意識するまでもなくセラが勝手にやってくれるだろう。

「この城の人間は、地位がどうだ身分がどうだと、余計なしがらみに囚われすぎている。

 いや、地位に執着するからこそ成果を残そうと躍起になってくれるのであればいいさ。けれど彼らは逆だ。地位や身分を基準にどれだけ優れた魔術を発表できるかを決めているんだよ。わかるかい?

 それらの基準が低いものは、そもそも優れた魔術を発表することが許されていないんだ。空気を読まない者は魔術院から追いやられる」

 

「……それは知りませんでした」

「ああ、リアが気にする必要はなかったからね。リアはリアで、やりたいようにやればいい。どんな妨害があろうとも、私たちが絶対に邪魔させない。

 ……とまあ、そういう好き勝手をするということもあってか、私は今も非常に嫌われている」

 

 それは本当のことだったが、肩をすくめて冗談めかして言う父の態度に、私はクスリと笑った。

 

「お父様は空気なんて読まずに、次々と新しい成果を発表していますからね」

「ああ、そんな馬鹿げた風習に縛られるなんて、真っ平だからね。一応、セレスのおかげでそのあたりも少しずつ改善されつつあるが……まだまだ、私が思い描く理想的な環境とは程遠い。未だに、私の事を外様のよそ者などとなじる者もいるくらいだ」

 

 父は呆れたように言った。

「……それは、本当に嘆かわしいことだと思います。お父様がこの国に招かれてから、二十年は過ぎたというのに……」

「まあ実際、国の歴史から見れば浅い新参者ではあるがね。陛下が我々を厚遇してくれていても、魔術院内部のゴタゴタに加えて、魔術院自体が騎士やその他の貴族から疎まれているなどという、非常に面倒な問題まである。これは人の歴史に比べて魔術がまだ比較的新しいこともあって、どこの国でも頭を悩ませている問題のようだ」

「……いっそ、新たな魔術組織でも立ち上げた方が良いような気がしてきました」

「実は以前、似たようなことを考えたことがある。もっともリアとセレスがいる今となっては、検討にも値しない選択肢だがね」

「あら、私達のせいですか?」

「ははは……そう言わないでくれ。散々偉そうなことを言ってしまった後にこんなことを言うのは恥ずかしいんだが、今の私には、魔術のみを優先して行動することができそうにない。それよりもリアとセレス、君たち二人の方が大切なんだ」

「…………お父様」

「もちろん魔術の研究を蔑ろにすることはありえないが、それでも君たちに辛い思いをさせてまでそんなことをしようとは思わない。

 新規に魔術機関の立ち上げなどすれば、どう考えても半端ではない妨害が入るだろうし、下手をすれば危険な目にあうかもしれないからね。

 もちろん、二人の身を案じて私一人が城を出てそれを行うというのも却下だ。

 万が一にも私ではなく二人に目を付けられて人質にでもされてしまったら私は逆らえないし、そもそもリアとセレスに気軽に会えなくなった日には、私は生きる意義をなくしてしまう。散々研究者としての心構えを語っておいて、情けないと思うだろうが」

 そんな、父親らしいのか女々しいのかよくわからない言葉に、思わず笑ってしまう。

「……いえ、自慢の父親です。それに安心してください、お父様。たとえお父様が日和っても、私がいますから。すぐにお父様を追い抜いて、環境を変えてみせます」

 

「ほう、親に向かって生意気を言うじゃないか」

 ニヤリと笑う父。王城魔術院の意識の低さなどという、あまり楽しくはない話から始まった会話だったが、なんだかんだ私は父との会話を楽しんでいた。

 

 たぶん、父も同様なのだろう。普段であればここに母も加わるのだが、父と二人きりの会話もたまには悪くない。

 真顔で語るには、結構恥ずかしいことも言われてしまったけれど。

 

「期待しているよ、リア。だが、それを重荷に思う必要もない。君が望むのであれば、魔術師なんかやめてこの城を出て行ってもいいんだ。もしも辛くなったら、それを思い出しなさい」

「はい、お父様。ありがとうございます」

 

 純粋に私の身を案じる言葉に、温かい気持ちにさせられる。

 

 ──しかし、そんな時間も長くは続かなかった。廊下の向こう側から、見知った男が現れたからだ。

 瞬間、鼓動が高く跳ねる。

 

 ────ドクン!

 

「ぅ……ッ」

 無意識に、呻く。

 嫌悪から……とは、取り繕えなかった。低く呻いたというよりは、甲高く喘いだという表現の方が近い。

 

 男は相も変わらず不機嫌そうな顔をしており、私たちの存在に気が付くと、その顔を更に険しく歪めた。

 

「……やあバルガス殿、こんにちは」

 

「チッ」

 

 爽やかな笑みで挨拶をする父とは対照的に、忌々しいという言葉を体現したかのような顔で舌打ちをするバルガス。

 

 普段であれば間違いなく気分を害する態度だが、今日はそれが気にならないくらいに、鼓動の音が煩い。

 

 もし父がこちらを向いたら、私の異常に即座に気付かれるであろう程に、狼狽えてしまっていた。

 身体が震え、じわりと汗が滲んでくる。動悸も早まっている。そして下腹部が、強く疼いていた。自分でも驚くほどに。

 

「……は、はっ……」

 バルガスと出会った場合、あの忌まわしき記憶が蘇り興奮してしまう可能性が高いことは予想していた。

 しかし実際は、そんな回りくどい精神的な興奮ではなく、問答無用で肉体が欲情してしまっている。

 

 きゅうん、という子宮が微かに締め付けられるような疼きと共に、愛液が分泌されていた。

 脱がずともわかるほど、乳輪から固く隆起した乳首が、制服を持ち上げている。

 

「はぁ……はぁッ…………」

 

 父のことしか視界に入っていないかのようなバルガスを、必死に睨みつけながらも、吐息が漏れた。

 幸いにも両者には気付かれていないようだ。

「おや、相変わらず機嫌が悪いようだね。騎士団長たるもの、常に心に余裕を持たなければいけないよ」

「黙れ。女々しい嫌がらせをするような屑にそのような説教をされる筋合いはない」

「……うん? それは一体、何のことかな?」

「白々しい! ここ数日、我が騎士団に次々と下らぬ面倒事が舞い込んでくるのは、貴様の仕業だろう!」

 言いがかりも甚だしい。父はそんな下らないことをする人間ではない。大体、今まで父に散々嫌がらせを続けてきたこいつがよくもそんなことを言えたものだ。

 ──と。以前であれば口に出して反抗してもおかしくなかったはずの私は、身体を震わせ、何も言えずにいた。

 

 ドクン。ドクン。ドクン。ドクン。

 

 心臓が大きく胸を叩く。こいつの記憶は結局残したままだ。悩んだが、ゲルウェンが計画を続行する以上、コイツ自身の記憶を消すわけにはいかなかったのである。だから私を犯した事を覚えているこいつと顔を合わせることになるというのは私の想定内。なのにここまで身体が反応してしまうのは、全くもって予想していなかったことであった。

 

(ああ──この場にお父様がいなければ、きっとどこかに連れ込まれて……♡)

 淫らな妄想が先行する。

 私の身体は完全に、雌としてよがり泣かされた記憶を覚えてしまっている。

 

「……何を言っているかはわからないが、それは私ではないよ。私のことを毛嫌いするのは構わないが、だからといってあらぬ疑いをかけるのは止めて頂きたいな」

「ふん。証拠がないからと、有利な立場にでもいるつもりか? 大方意趣返しのつもりだろうが……覚えておけよ、貴様の尻尾は必ず掴んで見せる。それまで精々怯えて過ごすことだな」

 私たちの前で立ち止まっていたバルガスは、それ以上話すことはないとでも言うように、歩みを再開する。そして──すれ違い様、目が合った。

 

 時が停止したかのような錯覚。

 太ももを伝う愛液を見られてしまっただろうか、服の上からでも分かるほど勃起した乳首を見られてしまっただろうか。

 ──いや、見ていて欲しいのだ。気づいてほしいのだ。

 背筋を這う甘い痺れだけがぞわりぞわりと動き続けていた。

 

「……ふん」

 それまでの形相から一転、にい、と口を歪めて笑うバルガス。その見下した視線に嬌声が飛び出しそうになるのを、懸命に堪える。

 父のいるこの場で、取り乱すわけには絶対にいかない。

 

「今晩、俺の部屋に来い」

 

「…………ッ!?」

 

 父には聞こえないであろう小声。私を気遣ったというよりも、父に気付かれる方が面倒だと思ったのだろう。

 それ以上は何も言わずに、バルガスは歩き去っていく。

 

「全く、彼には困ったものだ…………リア?」

 完全に固まってしまっていた私を訝しむように、父が振り向いて私を見る。

「あっ……ご、ごめんなさい、お父様。……行きましょう」

「ふむ……大丈夫か? なにやら顔色が悪いように見えるが。もしそうなら、無理はするな。あんな会議、さして重要でもないんだ」

「い、いえ、大丈夫です……」

 鼓動は変わらずバクバクと鳴り続けている。直前まで朗らかな精神状態で父と話していたというのに。

 バルガスを見ただけで、一言命令されただけで、私のスイッチは切り替わってしまっていた。

 しんと静まり返った王城内の廊下で、控えめに扉を叩く音が響いた。

 

「……」

 

 部屋の主からの返答はない。勝手に呼びつけておいて、これか。

 

 鍵は開いていたようなので、そのまま入ると──部屋の左手側、左開きのドアゆえに真っ先に視界に入る位置。

 そこに、ソファの上で裸で交わり合うバルガスと女がいた。

 

「あはぁぁああぁっ……イくぅッ♡イキますぅぅッ! 私、果てちゃいますうぅぅうッッ……♡!!」

 

「なっ……──」

 廊下に響く嬌声に、慌てて部屋に入ると後ろ手にドアを閉める。

 跳ね上がる動悸を落ち着かせながら、再び視線を上げると、バルガスに跨り、しがみつくようにして必死に腰を振る女には見覚えがある。

 以前遠視で覗いたときに、バルガスに犯されていた若いメイドだ。

 

(こ、この男っ……!)

 私を呼んでおいて、他の女を抱いているなんて──。

 

 かっと頭に血が昇る感覚がした。当然だが、嫉妬しているわけじゃない。こんな男にそんな感情を覚えるはずがない。

 ただ、この私を犯せるというのに他の女に手を出しているのが癪に触るだけだ。

 

 なにせこちらは、こいつに犯されてから今日まで、一日も自慰をしていない。

 それでも犯された日の夜は何の問題も無かった。満足感に浸りながらスッキリと眠れたくらいだ。

 

 だが日を重ねるごとに、身体が疼きが強くなっていった。

 

 それも当然だろう、あれだけの快感を教え込まされた後なのだから。

 何かの快楽を得た後に、身体が、脳が、あの経験をもう一度と訴えてしまうのは、生物として何ら不思議なことではない。

 そして私は、そんな自分の身体の反応にどうしようもないくらいに興奮してしまっている。

 男に犯された快感を忘れることができずに欲情している、そんな浅ましい自分を客観視する度に、たまらなく興奮が湧き上がる。

 

 日増しに強くなっていく劣情を堪えながらも、私は自分で慰めることをしなかった。かわりにあの日の、私が犯された時の映像を見続けた。

 

 そんなことをすれば余計に性欲を我慢するのが辛くなるなんてわかった上で、それでもせめて、と映像魔術を発動してしまう自分に苛立ちながら、そして興奮しながら、私は私自身の蕩けきった雌の顔を、鑑賞し続けたのだ。

 おかげで、自分がイクときにどれだけ情けない顔をしているのか、完全に覚えてしまったくらいだ。

 

 とにかく、私はずっと欲求不満を堪え続けたというのに。

 この男は手軽に他の女を抱いていた──その事実に、腹が立って仕方がない。

 

 メイドは恍惚とした顔で、間延びした嬌声を垂れ流し続けている。あの日からも、何度か犯されていたんだろうか。もはや嫌がる様子など微塵も感じさせずに、バルガスの上で腰を振り続けている。

 対するバルガスは、然したる感慨も無さそうに女の尻を掴み、下から腰を突き上げていた。

 

「はぁぅううううんっ……♡! んはっ、あっ、凄いですぅ……ひぅ、バルガス様ぁっ……♡!」

 凄い、というほどバルガスは強く動いていない。やる気も大して無さそうに、適当に腰を動かしているようにすら見える。

 だが女は、口を半開きにして、うっとりと瞳を滲ませていた。

 

 分かっているのか、自分がどんな顔をしているのか。

 そしてそれが、男を更に調子に乗らせるのだと──わかっているのか。

 

(ああ……♡)

 

 あれが、私たち女の性だ。

 快感でいっぱいになると、幸福感に全身が包まれて、目の前の男が愛おしくなる。媚びるのが、嬉しくなる。虐められることに、悦びを覚える。

 

 きゅうん、と下腹部が疼いた。乱暴に犯されることだけを渇望し続けていたが、あんな風につまらなさそうに犯されるのも、いいかもしれない。

 私だけが乱れ狂う情景が脳裏に浮かぶ。それはとっても、屈辱的に違いないから。

「遅かったな、小娘」

 ビクっと、身体が震えた。

「……別に。来る義理はないし、すっぽかしてやっても良かったけど、下手に逆恨みされても面倒だったから」

「なに……?」

 太い首に両腕を回して抱き着いているメイド越しに、睨まれる。

 その鋭い視線にたじろいでしまう。

「な、なによ。犯罪者に払う敬意なんてあるわけがないでしょう。言っておくけど、これ以上お父様に何かしたら許さないから……それだけ言いにきたのよ!」

 用意していた言葉だった。だが、身体が異常なまでに緊張しており、上手く舌が回らない。少し気を抜いただけで噛みそうなくらいだ。

 

 そもそも、状況がおかしい。私の予定では、部屋に待っているのはバルガス一人で、気丈に振る舞う私は強引に詰め寄られて、抵抗できずにまたも乱暴される……そういう流れになるはずだったのだ。

 

「あぁぁぁああああッッ……もっとぉぉ……もっと強く突いてくださいぃぃぃッ……♡!!」

 

 なのに実際は、部屋に入るなり性行為を見せつけられて。狼狽えつつも、私はずっとその場に居続けてしまった。

 気丈に振る舞うのであれば、すぐに怒って帰るなりすれば良かったのだ。

 

 だが、できなかった。バルガスが逆上して私に襲いかかる可能性もあったが、メイドと性交をしているこの場では、下手をしたら本当にそのまま帰れてしまう危険を秘めていたから。

 

「……んあぁぁあああァァッ……♡ッ……ッ……わ、私、おかしくなってしまいますぅッ……♡!」

 

 そしてその時点で、気丈に振る舞うという立ち振る舞いは滑稽な行為としてすり替わってしまった。当然だ、わざわざこの場でずっと待っていたのだから。

 

 その場だからこそわかる空気や間(ま)というものがある。

 時間にすれば、ずっとと言う程には長くないだろう。2分や3分、その程度だ。

 

 だがその時間は、警告しにきたと言い張るには不自然すぎる長い間(ま)だった。

 今更抵抗して見せたところで、道化にしかならないだろう。

 そしてそれは──私自身が望んでいた立ち位置だった。

 

「…………」

 乱れるメイドとは反対に、無言で静かにこちらを見るバルガス。

 もちろん、私が男に犯されたいという強い願望を持っていることを知られるのは絶対に嫌だ。それじゃあただの変態女だ。私の価値が減ってしまう。

 そして男にそう思われたまま犯されたところで、精神的な満足はきっと得られないだろう。

 

 でも今は違う。一度こいつに犯されているからだ。

 そう、今の私は望んで男に犯されにいくような変態女ではなく、男に犯されたことでその味を忘れられなくなった雌なのだ。

 

 バルガスがどんなに馬鹿でも、わかるはずだ。

 なにせ一度犯された男の部屋に、一人でこうしてノコノコとやってきたのだから。口では偉そうなことを言ってみせたが、メイドと性交している場面を見せつけられてもなお、ただ待っていた。

 そんなの、どこからどう見ても、期待している馬鹿女でしかない。

 

「だめぇぇぇ……またくるぅ……♡バルガス様ッ……♡イキます、イっちゃいますぅ……ッ!!」

 

 そしてそれだけは、嘘偽りなく私の本性だった。あの日犯された快感は、私の人生観を完全に変えてしまった。

 もう一度こいつに犯されたくて犯されたくて仕方がないのだ。

 

 それを見透かされたい。

 

 見透かされた上で、また激しく犯されて、見下されたまま、無様にイキ狂いたい。

 ──ああ、バルガスが私を見ている。こいつなら絶対にわかってくれるはずだ。

 今私が、こいつのペニスのことばかり考えているただの雌だということを。

 

 そう見透かしてほしくて、そしてきっとその通りに見透かされているが故に、顔から火が出るほどに恥ずかしい。

「……く、くっく」

「な、なにがおかしいっていうの……!? 言っておくけど、私は本気よ。まさか次も同じ手を使えるだなんて思っていないでしょうね……!」

 私は恥ずかしさを怒りに転化して、怒鳴りつけた。

「……いや、なに。私の逸物をしゃぶったその口で、よくもまぁそんな口を叩けるものだと思ってな。コレ(・・)にひぃひぃ泣かされたことを、忘れたわけではあるまい?」

 ──ぞくぞくぞくっ♡

 ニイ、とバルガスが下卑た笑みを浮かべながら、一度だけ強く腰を突き上げた。

 

「んはぁぁぁあああっ♡!!」

 

 呼応するように、メイドが跳ねる。

「な、なっ……!」

 下劣すぎる言い回しに、腰が抜けそうな興奮に耐えながら狼狽えてみせる私。

 湯浴みをして身体を清めてからここに来たにも関わらず、とっくの前から下着をぐちゃぐちゃに濡らしていた。

 

「貴様も期待していたのだろう? でなければ、バカ正直に言いなりになってこの場に来ることはあるまい」

「ぅ、ぅぅぅ……ッ♡」

 腰からぞぞぞと沸きあがってくる痺れを、懸命に押し殺す。こいつの顔、言葉、口調、視線、態度、全てに身体が反応してしまう。脳裏に刻まれたあの衝撃を、今か今かと待ちわびているように。

 

 もっと、もっと言って。

 私の浅ましさを、馬鹿にして。見下して。

 

 私はそのぶん応えるから。図星を突かれて、涙目で顔を真っ赤にして、でも期待してしまっているせいで、怒って帰るわけにもいかない、そんな無様を晒して貴方を喜ばせてみせるから。

 

「貴様はもういい、下がれ」

「ふぁ……ッ♡ はいぃ……ッ」

 ぬぽ……と音を立て糸を引かせながら、メイドの中からバルガスの性器が引き抜かれる。メイドは名残惜しそうにしつつも従順に乱れた制服を整えると、私の後ろのドアから退出していく。

 すれ違い様に一瞬視線があったメイドは、まるでバルガスに先に犯されていたことを誇るかのように自慢気で、私に同情するような淫蕩な瞳をしていた。

 突然胸が絞め付けられるように苦しくなる。しかしその原因が何かは私には理解が追いつかなかった。

「そら、次は貴様の番だ」

「く、うっ……!」

 混乱したままの心がバルガスの声でひき戻され、逡巡する。このまま従うべきか、逆らうべきか。

 どちらがより、惨めなのか。

「……なんだその面は? 嫌なら別に構わんぞ、帰れ」

「……っ!!」

 屈辱に震えた。今のは私が帰らないことを確信していないと出てこない言葉だ。いくら私が期待してしまっていることを見透かしたのだとしても、私が大人しく従うことをそこまで確信できるものなのか。

 

 状況的には従う理由は何一つないのだ。父と母にかけられていた嫌疑も晴れた今、こいつが私を脅す材料は何もない。私を犯したという証拠は私とセラが撮った映像以外にはないし、そもそも真実だと証明したところで捕まるのはこいつだ。

 そしてあれだけ大掛かりな行動をした直後に、似たような手が使えるとは流石のこいつも考えてはいないだろう。

 にも関わらず、こいつは私が従うと確信している。根拠はただ一つ。

 

 脳裏に、私のアクメ顔が浮かび上がった。

 その情けない顔で、恥も外聞も捨ててバルガスに媚びている私。

 

 あの私を、しっかりと覚えているからだろう。

 

 ……それでも、あれから一週間も経っている。正気に戻った私が反抗する可能性だってあるはずだ。極論、私がこいつを殺そうとすることだって充分にありえる。

 なのにこいつは裸で丸腰のくせに、動こうとする気配すら見せない。

 そんな警戒を一切していない。

 

 それは、この場で絶頂しそうなくらいの悔しさだった。

 

「くっく……どうした? 俺のコレが欲しいのか?」

 

「だっ……」

 誰が、と喉まで出かけた言葉が途切れる。

「ふん……貴様ら女どもは本当にどうしようもないな。澄ました顔でイキがる癖に、一度でも突っ込まれればすぐにそれだ。欲しくて堪らないんだろう? この雌豚が」

「う、うぅぅ……ッ!」

 ぞぞぞっと快感を伴った痺れが私の身体を駆け巡った。今すぐこいつに魔術を叩き込んでやりたいくらいに悔しいのに、罵られた瞬間の興奮が、それを上回ってしまう。

 今の言葉に反論できなかった以上、もはや誰がどう見ても言い逃れはできない。

そう、もうここまで来たら、このまま従うしかないのだ。

 

 じゅん……♡ と、濡れたそこが更に溢れる感覚がした。

 

「そら、何をしてる、とっとと咥えろ」

 ソファの縁に両肘をのせながら、バルガスがそう命令をした。

 

 私は小刻みに震えながら歩を進め、そしてソファに座ったままであるバルガスの性器を舐めるために、おそるおそる床に膝を落としてそのまま顔を近づけた。

 途端、むわっと濃い臭いが鼻につく。

 

「うぅっ…………!♡」

(臭いっ……それに、汚い……!)

 

 直前まで性交をしていたペニスは、メイドの愛液でてらてらと濡れている。こんなものを舐めないといけないのか。屈辱に大きな鼓動がドクン、ドクンと私の胸を叩く。

 

 ──ああ、やっぱり、大きい。

 

(こ、これが……あの時、私の中に……)

 私を女にしたバルガスのペニス。

 私の中を、これでもかと言わんばかりに苛め抜いたペニス。

 私はこれを挿れられてよがり狂って、ずっとこのペニスに言いなりになっていた。

 

「はぁ……っ♡」

 思わず熱い吐息がこぼれる。

 これがもう一度私の中に入ったら、すぐさま全身を支配されて、同じ道を辿るだろう。そしてそれは、何度繰り返そうとも変わらない。

 

 私の身体はこのペニスに勝てない。こんな汚らしい、獣じみた器官に、私の中の女が逆らえない。

 じゅわあ、と、一際量の多い液体が下着を汚す感覚がした。

 

(あぁ……、私は、これから、この男の性器を、口で……ッ♡ こんな男のペニスを、自分の意思で口に含んでぇ……ッ♡)

 完全にスイッチが入った私は、自らを卑下するように思考する。

 ゾクゾクと背筋を震わせながら、意を決して、それを口に含んだ。途端、苦くて気持ちの悪い味と、びりびりとした痺れが脳に広がっていく。

 

「むぐっ……じゅる……れろぉ……んぅう……ふぅうっ……♡」

(ああ……♡ こ、これ、やっぱり……ッ!)

 初めての新鮮味こそないものの、脳が感じる快感はあの時とまるで同じであった。バルガスとメイドの液体を飲み込み、かわりに私の唾液を塗りつけていく。

 

(だ、駄目……ッ、やっぱり私、これ、好きぃっ…………!♡)

 いくら感じるとはいっても、快感だけで言えば男に犯される方が圧倒的に気持ちが良い。

 だが、理性が保てるほどの快感しかないからこそ、私がしている屈辱的行為を頭がしっかりと認識してしまう。

 

 男に跪いて性器をしゃぶるという惨め極まりない行為に、私のマゾヒズムがぞくぞくと刺激される。

 それが、たまらなく好きだった。

 


「くくく……ずいぶんと美味そうにしゃぶるようになったものだ。あの男が今の貴様を見たら、なんと思うだろうな?」

「うぐっ……♡ んふぅぅぅううぅッ……♡」

 

 考えたくないその事実を指摘されただけで、全身に快感が走った。

 そうだ。例え建前でしかなかったとはいえ、父を守るためという名目で私はここにきていたはずだ。そして私は、こう言った。

『お父様に何かしたら許さない』

 私は今、舌の根も乾かぬ内に、その男のペニスをしゃぶっているのだ。

 間違いなく、恍惚とした表情で。

「…………ッ!!♡」

 

 脳の痺れがぞくんぞくんと膨れ上がった。

 びくん! と大きく一度身体を震わした私は、慌てて全身に力を入れて取り繕う。

(うそ、うそ……っ)

 感覚的に察してしまった。このまま続けていたら、私は恐らく絶頂する。

 

 信じがたいことだった。前回も無理やり咥えさせられたときにかなりの快感を得てしまったし、あろうことか漏らすなどという失態も晒してしまったとはいえ、絶頂にまでは至らなかった。

 

 それはそうだろう。いくらこんな男の性器を口で奉仕するという屈辱的な行為に興奮して気持ちよくなったとしても、結局物理的な性感とは比べるべくもない。

 それだけでイってしまうなんて、私の常識外のことである。

 だが、事実私はイキそうになっている。

「ふむ、良いことを思いついたぞ……。この後、貴様の身体を使ってやる間──貴様にはこれまでの非礼を謝罪し続けてもらおうか」

 

「……っ!?」

 追い打ちをかけるように、バルガスがそんな馬鹿げたことを言った。

 

「無論、貴様自身の分とあの男の分、共にだ」

 ……呆れた、という他にない。相も変わらず、なんて小さい男なのか。

 自分の能力に自信が無いから、そんな下らないことで自尊心を満たすことができるのだろう。

 私に言わせれば、ゴミのようなプライドだ。

 

 ──そう強がりながら、私の身体は、

 

 今の言葉で、潮を吹いて絶頂していた。

 

 ぶしゅっ、ぶしゃぁあああッ♡

 びくん、びくびくっ、びくん!

 

「…………ふううっ♡ んふうぅぅううー…………っ♡」

 バルガスのペニスを口いっぱいに頬張りながら、涙目で淫らな吐息を零す。

 今の命令を聞いただけで──こいつに犯されながら、謝りながら、何度も何度もイカされる私を想像して、瞬間的に身体が果ててしまったのだ。

「相変わらず下手糞な奉仕だが……それはまたおいおい躾けてやる」

「あ、うう……っ!?」

 唐突に、グイ、と軽く髪を掴まれて、強制的にフェラを中断させられる。

 ペニスが口から引き抜かれ、口の端からは唾液が垂れていた。

 

 前髪を乱暴に掴まれたまま、目線を合わされる。

 バルガスは満足気に口を歪ませながら、上から私を見下ろしていた。

 私は眉頭を切なげに上げながら、視界を滲ませてバルガスを見上げる。

 この場の上下関係はもう、決まっていた。

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5~7はどこでしょうか…?