千人坂怪奇譚 第二の噂「御狐様」 (Pixiv Fanbox)
Published:
2020-06-28 06:08:32
Edited:
2020-06-28 06:17:06
Imported:
2021-06
Flagged
Content
山間に囲まれた千人坂市にはいまだ多くの自然が残っており、中心地から少し外れれば河川キャンプ場やハイキングコースなど
自然を活用したアウトドア施設も点在する。
御狐山と呼ばれる小高い山が存在する。その山は特に目立った名所もなく、登山客どころか地元民でさえ滅多に立ち寄らない。
特に男性が入山することは禁忌とされ、千人坂市の子供たちは幼いころより厳しく教えられている。
神社が祀られているでもないのに、なぜ「御狐山」などと呼ばれるのか。
古くからの言い伝えで、この山には狐の物の怪が棲むと言われていた。
人の精を吸って生きながらえる狐は気まぐれに人を攫うが、しばらくすると返してくれるため(ただし干からびて息も絶え絶えだが)特に村人は困っていなかった。
そのうち村の有力者が狐のこしらえる霊薬と引き換えに若い男子を差し出すようになり、いつしか「御狐様」などと敬われるようになっていった。
やがて時は移ろい、御狐様の存在も忘れ去られていった。
怪異が人々の生活から離れつつあった頃事件は起こった。
男の子が御狐山に入った直後、神隠しにあったのだ。
住民と警察の捜索の末発見された男の子はミイラのようにやせ細っていたが、その顔は恍惚に満ちていたという。
その後、少年は男性機能が不能となってしまった。
完全に不能になったわけではない。ある種の特殊性癖…歳の大きく離れた熟年女性と狐にだけ反応してしまうようになったのだ。
この一件をきっかけに、御狐様の迷信をわずかに受け継いでいた年寄りによって御狐山への入山は禁止されるようになった。
幸いそれ以降被害に遭う者はおらず、若い男性以外であれば入山も許されるようになった。
ちなみに男子が神隠しに遭って数年後、山から身元不明の幼子が現れた。
「狐子(きつねご)」と呼ばれるその子は御狐様が攫った男子の子種でこしらえた子供と云われている。
生来より狐の神通力を持ち、周囲に福をもたらすとも云われる狐子は、地域の年寄り連中によって手厚く育てられるそうだ。